効率的な制作スタイルでクオリティの高い同人誌を発行する「konel」の裏側

同人活動をする人に役立つ情報を同人誌として発行している「konel」。毎号一切の妥協をせず、クオリティの高い本を出し続けている秘訣は、効率的な制作スタイルにありました。自分たちのノウハウを本にし、企画から制作、頒布、振り返りまで抜かりなくこなしている姿は、これから同人サークルをはじめたい人だけでなく、すでに活動中のサークルにも役立つこと間違いなしです。

それぞれが編集からデザインまでこなせるからこその役割分担の方法

まずはサークルの活動内容やメンバー構成について教えてください。

佐野サークルでの活動は、「ものづくりを考えるエッセイ&インタビュー」をコンセプトに情報誌を発行しています。内容は毎回変わるんですが、今は夏と冬で年2回のコミケに参加しています。
メンバーは、僕とcubeの2人で、それぞれ編集から執筆、デザインまでをやっています。明確にどちらが何をやるかは決めていなくて、本の内容によっても役割が変わるんですが、僕が主にデザインのこと、cubeは編集をやることが多いかもしれません。

そうなんですね。どういう基準で役割分担しているんですか?

佐野まず、毎号作るときにディレクターを決めていて、ディレクターになった方が質と〆切の責任を持つようにしています。例えば、前回のissue4がcubeで、その前のissue3は僕がやっていますね。
cube(本の内容が)得意なジャンルだったり、自分がやりたければ手をあげるような感じですね。
佐野そんな感じで基本的にはディレクターの裁量として、各々の役割をふっていっています。2人チームでディレクターっていうのも変な話なんですが、そういうのをお互い経験しておいたほうが属人性も薄まって良いのかなと思っています。

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サークル名などを特集した「issue3」(画像左)と、「役立つ」について考える「issue4」(画像右)。

お二人とも執筆からデザイン、編集までこなせるというのはすごいですね。もともとそれらのスキルがあったんですか?

佐野僕はもともと大学のゼミで紙媒体のデザインをやっていたのと、普段はWebデザイナーをやっているので、そのあたりのデザイン周りは普段からやっています。あと、僕自体は(konelより)前からサークル活動をしていたので、要領もある程度わかっているというのはありますね。
cube僕はサークルをはじめた当初は学生だったんですが、以前に電子書籍の企画や編集の経験があって、今はフリーランスで書籍の編集だったりデザインをやっています。

コンセプトを深く反映させたサークル名へのこだわり

同人活動をはじめようと思ったきっかけは何ですか?

佐野高校の頃に先輩が同人活動をしていたのを見ていたんですよ。そこからkonelの前身となるjaddaという別の同人サークルを2011年に結成しました。そのサークル自体はまた別の人とやっているんですけど。jaddaの正式名称は「日本同人誌デザイン協会」といって、主に同人誌デザインのことについて論じるサークルだったんですよ。そこから、もっと広い範囲で違ったコンセプトで本を作ってみたいなと思って。どうせなら別の人とやってみると何か良いアイデアが出るかもしれないと、当時売り子で手伝ってくれていたcubeを誘って、スピンオフ的な位置付けで今のkonelを結成しました。

そういった経緯があったんですね。「konel」というサークル名の由来はなんですか?

佐野サークル名については一度変更しています。もともとは、jaddaのスピンオフということで「jadda+」という名前だったんですが、名前が非常に似ていて同じサークルだと思われがちだったのと、活動内容も結果的に変わってきて、jadda+を結成して1年の節目となった昨年冬に、サークル名を「konel」に変更しました。konelにするときは確かブレストをかなりやりましたね。
cubeそうそう。他にも色々と案はでましたね。
佐野確か標語とか理念からブレストをしていたときがあって、「おだやか」「ものづくり」「長期的に良いことをやる」みたいな3つのワードがでてきたんですよ。そこから頭文字をとると「おもち」になるなと。それで「おもち」ってサークル名ってけっこう良いんじゃないかと盛り上がって……。でも「おもち」っていうワードは(一般用語だから)検索しても引っかかりづらそうなだということで、最終的に「konel」となったんですよ。konelというのは「お餅をこねる」っていうところから思いついたんですけど。「こねる」ってものづくり感があるし、語感も柔らかくてローマ字にしても可愛いいし良いなと。サークル名は「konel」になりましたけど「おもち」は今もサークルのスローガンとして生きています。
cubeそのへんの顛末を同人誌としてまとめたのがissue3ですね。

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issu3では、konelが名前を変更した経緯などについても紹介されている。

konelとして初めてコミケに出たときはいつでしょうか?

佐野issue1がはじめてなので、2014年の夏コミですね。確かアイデアがまだでてない段階で申し込みをやったんだよね(笑)?
cubeそうだね(笑)。夏コミの予定だと申込みから制作の用意をするまでに期間的な余裕があるので、1月か2月あたりからぽつぽつとアイデアを出し始めて。
佐野issue1は付録にすごろくが付いているんですが、申込み時点ではふろくを付ける予定もなく、デザイナーにまつわる何かを作ろうくらいの考えでした。
cubeサークルカットも毎回ハッタリで、内容書かずにロゴだけとかだよね(笑)。
佐野毎回そうだね(笑)。申し込み時点では本当に何もアイデアがないときが多いので……。

issue1から今までコミケには毎回当選していますよね。落ちたらどうしようとかは考えていたんですか?

佐野多少考えていた気もしますけど、落ちたら落ちたでそのときにまた考えよう!くらいで、あまり深くは考えてはいなかったと思います。今もですけど。
cubeそうそう、konelとしては今まで落ちたことが無いんですよね。一度個人で出ようとして落ちたこともあるけど、あくまで趣味の範疇なのでそれはそれとして、そこまで深刻には考えないです。

issue1
konelとしてはじめて出した同人誌「issue1

完成物に妥協しないための、効率的な制作スタイル

制作に関してはどのタイミングから作り始めるんですか?

佐野毎回2ヶ月ちょっとかけて作るので、当落がでるより前からですね。
cube当落がでてからだと入稿まで1ヶ月ない状態になってしまいますし。
佐野僕が心配性な部分もあり、早め早めにあげないと胃が痛くなるタイプなんですよ。でもcubeはその逆で……。わりとギリギリにあげてくるタイプで。そのへんの感覚が違うので、どうしても僕がcubeのケツを叩くというような状態ですね(笑)。
cubeそこは改善する必要がありますね。いつもすいません……。

普段のお仕事で制作にかかる時間などもある程度イメージがついているぶん、わりと制作スケジュールはスムーズだったんですか?妥協した経験などはありますか?

佐野なるべく時間で妥協したくないので、余裕をもって制作するようにしています。本当に時間がなくなりそうだったら、僕がアラートを出すので(笑)。自分たちの本なので、中途半端なものを作って「なんだこんなものか」と思われるのはあまり好きじゃないので……。一生懸命作って読者にがっかりされるだけであればまだいいんですけれど、自分たちも納得していない本を作って、読者にもがっかりされるのはおもしろくないじゃないですか。なので、そのあたりは納得いくまで粘るっていうのは意識していますね。
cubeそこは僕も同意ですね。
佐野最初に原稿があがってきたときはクオリティ的にまだまだなことが多くて。そこからブラッシュアップする期間が長いんですよ。そこの時間をちゃんととるというのがこだわりだったりはしますね。
cubeあとはWebっぽい考え方も取り入れていて、いつも本を作る時はMVP[1]的に作っています。例えば、特集の一番大事なところなどをまずは仮で作ってみて、それを見た上で面白いかどうかを判断するというような感じですね。

すごく効率的に制作されていますね。制作において難しかったことはあったんですか?

佐野これまでの中では、たとえばすごろくを作ったことですかね。初めて作ったので見よう見真似で作りましたけど、けっこう面白いものができたなと思います。
cubeベースを僕が作って、テストプレイしながら作り上げていくんですが、それなりに大変でした。
佐野cubeの家で合宿をしながらプロトタイプを作り上げつつ、制作していったんですけでど、完全に手探り状態ではありましたね。

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「issue1」の付録として制作したという「デザイナーすごろく」。

なるほど。他に苦労した点というか、トラブルなどはありましたか?

佐野cubeの体調ですね(笑)。
cube体調崩してたね……、あのときは。当時、体調に波があって、スケジュールを立てるのがしんどかったんですよ。
佐野そうですね。それで大幅にスケジュールがずれ込んで立て直すのが大変でした。ただ、そういったことがあったんで次からはそのあたりをしっかりとカバーしようとか、もっと役割を明確にしようなどの話ができたんで、早いうちにトラブルがあってよかったなとは今になって思いますね。

ちなみに普段コミュニケーションはどうされていますか?使用しているツールも教えてください。

佐野普段僕たちは遠隔で作業しているので、基本はSlackでのコミュニケーションですね。あと週一のミーティングはSkypeを使っています。メールは外部の人との連絡以外は一切使いませんね。ミーティングの議事録はEvernoteに残しています。
cubeデザインファイルや原稿などの制作ファイルはほとんどDropboxですね。そのへんは活動し始めた当初とそこまで変わっていないですね。
佐野強いて言えば、タスク管理ツールは当日と今ではかなり変わっています。当時はtrelloを使用していましたが、4~5個試した結果、今はMeisterTaskに落ち着きました。そのへんについてもissue2で詳しく解説しています。

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チームで同人誌をつくるためのノウハウが紹介されている「issue2」。

はじめてkonelとしてコミケに参加するにあたり、当日の手順はスムーズにいったんですか?

佐野そうですね。ブースの設営に必要な垂れ幕などのグッズも作っていたんですけど、余裕を持って事前準備していましたね。
cube制作の進行表と一緒に当日必要な物のチェックリストを作成して、必要なものに抜け漏れがないように作っていました。

当日何か印象に残っていることはありますか?

cube立ち読みしてくれる人が何故か同時期に固まったりと、会場の人の流れは数回経験した今でもなんだか不思議ですね。支払い待ちの人が急に3,4人並んだりして、ちょっと大変なタイミングとかはありました。
佐野我々は規模の大きいサークルではないけど、それでも人の流れは読めないです。
cubeもともと評論島自体、けっこう雑多に探している人が多いというのもあるんですけど。
佐野購入してくれる人の雰囲気では、僕らのことを事前に知ってくれて買ってくれる人と、通りすがりで買ってくれる人は半々くらいですかね。

逆に何か苦い思い出はありますか?

佐野ポスタースタンドの組み立てのときに、きつく締めすぎて外すときに内出血をしたときに痛かったという思い出があります(笑)。次からはあまりきつく締めすぎないように気をつけてします。
cube痛いといえば、当日の朝に郵便物の受取場所へ(同人誌の入った)箱をとりにくんですが、めちゃくちゃ重くて腰を痛めましたね(笑)。
佐野なんか老人みたいなことばっかりだな……(笑)。
cubeでも実際、けっこう1日通して重労働なんですよね。

ブースでは積極的に声をかけたりはしているんですか?

佐野机に目線をもらった人に声をかけるくらいではあるけど、そこそこ積極的にはやっています。
cubeまあ商店みたいに派手にはやらないです。
佐野ただ、売り子をするのが苦手だったりするので、毎回誰かに手伝ってもらっていつも3人でブースを回していますね。

届けたい人にちゃんと情報を届けるために、告知サイトは必ず作る

ちなみにいつも何部くらい刷っていくんですか?

cube部数は公表していないんですが、企画の内容も考慮しながら過不足なく欲しい人に行き渡るだろう、という数を見計らって印刷しています。委託分なども考慮して年間通して全て捌ければいいかなあという感じですね。
佐野それと、家に在庫は持ちたくないので、在庫管理の面でもやさしいショップに委託で置かせてもらっています。あと、僕たちのサークルはPDF版をあとから売るので、そのへんも考慮しつつ、紙の本は刷りすぎないようにはしています。

どのくらい刷るかという話でいうと、事前のプロモーションでも少し変わってきたりもすると思うんですけど、プロモーションにはどのくらい力を入れていましたか?

佐野konelは告知サイトを事前に時間をかけて作るのを心がけていて、本を作るときは必ず告知サイトを作って、それをもって告知するんですよ。なので、事前のプロモーションとしてはわりと力をいれているほうかなと思います。TwitterなどのSNSも使うのですが、それ自体はあまり積極活用せず、告知サイトのURLをお知らせするのが主目的です。告知サイトを見ればすべての情報がのっているので。本業がWebデザイナーというのもあるのですが、そこはこだわりたい部分ですね。。
cubeいつもサイトの公開のタイミングでアクセス解析の情報も見て、どのくらいの人に見られているかもチェックしています。
佐野そうですね。ちゃんと届けたい人に届いているかは気を使っていますね。

kokuchi
konelでは、すべての同人誌に告知サイトが用意されている。

そのあたりのお客さんの反応などは振り返ったりもしているんですか?

佐野反省会はだいたいその話になりますね。
cube数字までしっかりとっているわけではないですけど。
佐野見本誌を読んでどのくらいの人が買ってくれたのかは、あくまでも肌感ですが「今回はそれなりに好感触だったよね」とか「今回はいまいちだったな……」といった話し合いをしています。やっぱり自分達のやっていることが好きなので、どのくらいちゃんとお客さんに届いているかはすごく気にします。
cubeエゴサーチとかもしますね。やっぱり気になりますし。ブログとかに感想書いてくれる人とかもいて嬉しいですしね。

さいごに、これからサークル参加を考えている人にメッセージをお願いします。

佐野同人サークルって継続するのが難しいと思うんですよ。複数人でやっているとコミュニケーションなどの問題もあるし。はじめてやる時はわりと勢いで本は出せると思うんですけど、そのあとの継続というハードルはうまく乗り越えていく必要があると思います。
もうひとつは、気持ちが折れそうになった時の魔法のワードみたいなのがあると良いですね。特にオリジナルでやっていると「これ需要あるのかな……」ってすごく不安になる時があるんですよね。だからこそ、「絶対作る意味があるし、俺らが作らなくて誰が作るんだ!」という気持ちというか、根拠のない自信は必要だなと。
cube僕もそのあたりはだいたい同意ですね。あとは、同人活動をすることで勉強になることがいろいろとあるんですよ。うちはMVPで本を作っているという話がありましたけど、普段Webデザイナーをしている佐野だからこその考え方で、自分ひとりではそういった進め方にならなかったと思います。その他にも本を作ることで、印刷周りや編集の勉強にもなりますし。好きなものを作っているだけでも学びになることが多いので、得るものは多いですよ。

ありがとうございました!

○konelの公式サイト → http://konel-works.com/