文章からイラストまで一人でこなし、心理学系同人誌を発行するサークル「心理区」の初コミケ

大学で心理学の研究を行いながら、心理学の魅力を伝えるために活動しているサークル「心理区」。評論ジャンルで、心理学についてわかりやすく解説されているほか、表紙や挿絵のかわいいイラストも魅力です。その全てを制作しているのは、心理区主宰で、唯一のメンバーでもあるつゆき氏。サークル活動を始めたきっかけや、心理学を選んだ理由について色々とお聞きしました!

心理学のことをもっと知ってもらいたいからサークルをはじめた

まずはサークルの活動内容やメンバー構成について教えてください。

つゆき心理学を解説する冊子を作ってコミケで頒布しています。メンバーは、私ひとりです。こういうのは個人で気楽にやるのが良いなと思っていて、たぶん複数の人でやっているとどうしてもサークル活動が仕事のようになってしまい、義務感や責任感が生じますよね。自分の作業の遅れが他のメンバーに迷惑をかけるといった状況の中で作業をするというのは、マイペースな私にはつらそうで・・。自分ひとりなら、それこそ新刊を落としたところでなんともないですし!

寝相の心理学

心理区がC88にて発行した「寝相の心理学」。寝相と性格に関連があるとする説の真偽について解説されています。

なんともなくはない気はしますが・・(笑)。心理学の同人誌ということですが、なぜ心理学なのですか?

つゆき普段は大学で心理学を研究していまして。よく思うのですが、心理学という学問は、世の中で最も誤解されている分野ではないだろうかと。心理学を勉強すれば人の心が読めるようになる、というイメージをなんとなく持っている人が多いように思います。でも、心理学をマスターすれば人間関係が上手くいき、仕事も恋愛も大成功!ってなるかというと、そんなことはまったくありません。だって、私は心理学でマスター(修士号)も取っていますが、仕事も恋愛もろくな成果は出ていませんからね。世の中、そんなうまい話はないのです。
ある教授の言葉ですが、「大学の心理学科の重要な役割は、心理学に誤解を持って入学して来た学生を、教育によって心理学になど期待しない真人間にして社会に送り出すことだ」というのがあります。なかなか辛辣な意見ですが、これはもっともなことなのです。

世間一般に思われているのとはずいぶん違った別の姿が心理学にはあるんだということを、少しくらいは知ってもらうのもいいんじゃないかと思い、このような活動を始めました。

なるほど。以前から同人活動をすることを考えていたんですか?

つゆきコミケの「評論・情報」ジャンルの同人誌がもともと好きだったのです。それぞれの人が、自分の好きなこと、料理とか、科学とか、デザインとかを題材にして、好きなように文章を書いたり絵を描いたりして本にしていました。何かを作る動機としてそれはとても純粋で好ましく思えたし、何よりそういう熱気を持って作られたものは実際に読んで面白いのです。自分なら何が作れるだろうと考えた時、専門である心理学を扱ってみようと、自然と考えが及びました。また、以前から科学コミュニケーションに関心があり、同人誌を作るというやり方でアウトリーチができればおもしろいだろうなとも考えました。あとは…その頃に特に影響を受けたものとして「あの人の研究所」や「Ko-wa’s Inn」といったサークルの存在が大きいです。どちらも学術を同人誌というメディアを使って伝えるということをしていて、コミケってそういうのもありなんだと、ハッとしたのです。

実験心理学の湯憂鬱

コミケにサークルとして初参加したときに発行した「実験心理学の憂鬱」。血液型性格診断や嘘と視線の関係など、心に関連した俗説に学術的裏付けが無いことなどが解説されている。

サークル名である「心理区」の由来や活動コンセプトを教えてください。

つゆき心理学を扱うサークルなので、「心理」という言葉を必ず入れておこうと思いました。そうすれば初見の人にもサークルのコンセプトがわかりやすいでしょうし。あとはサークルっぽい接尾辞ということで「区」を追加しました。結果的に、「しんりがく」から「が」を抜いた、シンプルかつそれなりに印象的でもありそうな名前ができました。

活動コンセプトとしては、心理学の内容を、わかりやすく、でもそれなりに本格的に伝えられるようなものを作りたいと、そんな風に思っています。

表紙や挿絵としてイラストが描かれていますが、イラストもご自身で描いているのでしょうか?

つゆきはい、イラストも自分で描いています。こういう情報系の同人誌は文章だけのものが多いですし、絵があればそれだけで目立つことができます。内容に興味を持ってもらうための最初のフックとして、表紙イラストの存在はかなり効果的だと思っています。表紙だけでなく本文中の挿絵もなるべく描きたいのですが、大抵いつも制作時間が足りず、表紙にしか絵がないことが多いです・・。
本のテーマを決め、関係する論文を読み漁って知識を得て、文章を書く。ここまでで時間の大半を使ってしまうので、絵に割ける時間があまりないのです。こういう場面で個人制作の限界を感じますね。

イラスト
つゆき氏によるイラスト。

自分が作ったものを手にとってくれるということのすごさ

コミケに初参加したのはいつでしょうか?

つゆき初参加はC86の夏コミです。この時は実はサークル申し込みはしておらず、にもかかわらず本だけは作るということをしたのです。コミケ前の時期のTLを見ていると、多くの人が自分の制作物の情報をつぶやいたりしていて、それを見ていると自分も何かを作りたいという気持ちが昂ぶるものです。その熱気にやられて、私も制作物としてとても薄い簡単な冊子を急ごしらえで作ったのです。その冊子の告知サイトまで作って、それをいわゆる「自宅頒布」というジョークとしてTLに流しました。するとサークル参加している知人から委託してもいいよと話をもらい、結果的に知人のスペースに本を置かせてもらうという形でサークル参加をすることになりました。

初参加ではどのような本を出したのでしょうか?

つゆき『実験心理学者の憂鬱』という冊子です。心理学が誤解されているという話を冒頭でしましたが、それ以外にも心理学をしていると憂鬱に感じることがいくつかあり、それらの話題を5つほど集めてエッセイ集としました。ちなみに、「実験心理学」というのは、心理学の中でも調査や臨床ではなく「実験」という手法を用いて心や脳の働きについて研究を行う分野のことで、私はそれを専門にしています。

参加してみてどうしてしたか?また、何か印象に残っていることはありますか?

つゆきいい感じだったと思います。初参加だったので50部だけ用意したのですが、お昼過ぎにはすべてなくなりました。開場して間もないタイミングに私の本を目当てでスペースに来てくれた人が存在したことに驚きました。
自分の作ったものを手にとってくれる人がそもそも存在するということが、コミケでは何よりも印象深いことです。それを超えるようなすごいことなんて無いと思います。だって、そうですよね? それがあるから、みんな寝る間も惜しんで自分の作品を作っているのだと思います。すごいことだと思います。有名人でなくともニッチな需要を満たすようなものを作っていれば、興味ある人の観測範囲に入るものなのだなって、参加者数の大きいコミケではそういうことがあり得るんだなと感心していました。こんな素敵な場所、多くの人が沼にハマるのもわかるなぁと、これが運の尽きでしたね(笑)。

もうひとつ挙げるなら、そうですね…これはあとで知ったことなんですけどね。私の初参加の時の本を見た人の中に私と同じく心理学を専門にしている方がいて、影響を受けてその次の回のコミケにその方が心理学系の同人誌を作って参加し、私とお隣のスペースで会うことになったのです。期せずしてコミケの中に心理学ジャンルが、たった2サークルですが成立した瞬間でした。確かその状態が次のコミケでも続いたのですが、その後は私もその方もサークル参加を休止してしまい、コミケにおける心理学ジャンルは残念ながらすぐに消滅してしまいました。

なるほど。継続的にコミケに参加されているのですか?

つゆき初参加のあと、2回続けて参加しています。頒布部数も参加するごとに倍倍で増えていきましたし、楽しかったですね。ただ、部数が増えるにつれて自分の中である種の罪悪感も増していったのです。
私の作っていた冊子は毎回総ページ数が12ページとかなり薄いもので、明らかにボリュームがないのです。はじめのうちは、時間がない中で個人で作っているものだし、仕方ないだろうと自分の中で言い訳していましたが、やはりやるからにはそれなりのものを作らないと、という気持ちの方が強くなっていって……。あと本業の方が忙しくなったこともあり、現在は活動を休止しています。

アンケートを使って次のプロモーションに活かす

コミケが終わったあとは、振り返りをしたりはしているのでしょうか?

つゆきちょっとした試みとして、スペースへ来て本を手に取ってくれた人に、アンケートをその場で書いてもらうということをしたことがありました。いくつかの質問項目があったのですが、そのうちの一つに「当サークルの本をどこで知りましたか」という質問がありました。

それがわかれば、今後のサークル活動においてどのような広報を行えばよいか方針が立つと思ったのです。アンケートの結果ですが、twittterで見かけて(38%)、会場で見かけて(38%)、カタログで見て(10%)、知人から聞いて(10%), pixiv(3%)、というものでした。回答者数は38で、このイベント時の頒布数は100部でしたから、回答率は4割くらいということになりますね。

会場内のその場で見て買ってくれる人がこんなにもの比率でいるという結果は、予想外でした。情報誌系のジャンルは会場をぶらぶらして面白そうな本をその場で探そうという人が多いのかもしれません。他のジャンルでもこのような比率になるのかは気になるところです。会場で初めて見かけて手にとってくれる人がそれほどいるのなら、スペース上のディスプレイにはけっこう力を入れるべきだとわかります。ポスターを掲示して人目を引くようにしたり、卓上に頒布物の短い紹介文を置いてどんな作品なのかすぐわかるようにしたりといった工夫が、かなり効果的に頒布数を増大させると予想できます。

アンケート
会場で実際に購入者に行ってもらったというアンケート

そこまでデータをしっかりとって分析しているのはすごいですね。

つゆき実はこのアンケート、「もし答えてくれたら頒価を100円値下げします」と言って書いてもらっていました。質問が何個もあるアンケートを書くのって割と面倒ですから、そうでもしないと書いてもらえないと思ったのです。ただでさえ赤字覚悟でやっているのに、さらにこんなことをやっていたらますます損が増すのですが、そうしてでもデータを取っておきたかったのです。データというのはそれをするだけの価値があると思っています。

ただ、後になって思ったのは、別に値引きなどしなくても午後の落ち着いた時間帯であればアンケートに協力してくれる人はけっこういたんじゃないかと。また機会があれば試してみたいところです。ともあれ、アンケートを取るのは面白いので、みなさんもやってみるといいと思います。別に当日スペースでやらなくても、今ならtwitterを使っても簡単なアンケートなら取れますしね。

作りたいという気持ちがあればあとは行動するだけ

さいごに、サークル参加を考えている人にメッセージをお願いします。

つゆきサークル参加を考えているという時点で、何か作りたいと思うものがあるのだろうと思います。それだけで、もうすごいことなんだと思います。世の中、頼まれても何かものを作ったりなんてしたいとも思わない人が大半なのです。作りたいという気持ちがあるというだけでもう仕事の半分は終わったようなものだと思います。あとは、そのとき思い描いた理想を心のどこかに留めつつ、実際に作る時にはその時の自分の技術や時間の範囲内でできることをとりあえずやるしかないと思います。どうせ理想通りにことは進まないでしょうし、黒歴史を生産することになる可能性も高いですが、やってみて初めてわかることってたくさんあるので。とりあえず、まずはコミケの申込書を買うこと。ここさえクリアできればあとはどうとでもなります、たぶん。1度参加してみれば、コミケという場がそれまでとはきっと違って見えると思いますよ。

ありがとうございました!

○心理区の公式サイト → http://roroco.net/